シュンの日記なページ

当別町スウェーデンヒルズ移住者 ブックレビュー 悪性リンパ腫闘病中 当別オジサンバンドOJB&DUOユニットRIOのVocal&Guitarist ツアーコンダクター 写真 スキー 山 田舎暮らし 薪ストーブ

古い古いノワール

 ポケミス名画座で翻訳される作品がほとんど1940年代から50年代。先日読んだ『狼は天使の匂い』も映画よりずっと古い時代の、戦後という空気がまだ完全には消えていない時代。大戦の爪痕のようなものが、アメリカのノワールには感じられて、その最たるものは主人公たちの貧しさだ。『ハイ・シエラ』にも『孤独な場所で』にも感じられる餓えのようなものが、やっぱり『狼は天使の匂い』にも感じられる。
 小説『狼……』は映画とは違って、主人公は悪党ではない。警察に追われる羽目になったものの、犯罪者ではない。つかまりたくなくて、悪党たちの塒につい居着いてしまったという話で、そこは外よりもずっと危険な場所に思えた。
 映画と違って、悪党どもの塒は、まさに貧しさを感じさせるものだった。女たちが料理を作り、男たちはポーカーで時を食い荒らす。冬だというのに、暖房のない家で、誰もが寒さをこらえて生きている。夢見るのは金持ちの家を襲う計画の後のこと。
 生まれついての犯罪者のように見えるものの、やはり彼らの底に染みついたものは、貧しさなのである。
 かくいうぼくも大戦の10年後の世代。高度成長期を迎えつつあり、日本は繁栄に向かってはいたものの、貧富の差は本当に激しかった。学校の教室でもその差は歴然と感じられた。ぼくの家は相当に貧しかったな、と今でも思い出す。
 でも子供にとってはよほどの大金持でもない限り、家が裕福であろうと貧乏であろうと、あまり関係のない話だった。贅沢はできないし、玩具も本もろくすっぽ買ってもらえなかったけれど、外で遊ぶ幸せ、食べる幸せ、両親に甘える幸せというものはいっぱいあった。
 古い古い、貧しい時代のノワールを読んでいて、思うことは、大人になってある程度しみったれてきたところで、さもしくなり、貧しさを実感する寒さ、そこから生まれる孤独、そういうものを感じる。どれも子供には感じられないことばかりである。想像するに、戦争を潜り抜けてきた世代であるぼくらの親たちは、本当の貧しさを生き延びるために健康的な精神状態をずっと保っていたわけではないだろう。ぼくらの親たちの暗黒というものは、その時代、少なからずあったのだと思う。一歩ずれるだけで限りなく広がってしまう類いの暗黒が……。