墓前で
ここに眠る、母よ、父よ、弟よ。
あのときの家族はぼく独りとなり、今、ぼくは新しい家族を構えています。妻子は今も札幌にいるけれど、来年からはさいたまで一緒に暮らします。それまではお墓にも一人で来なきゃならないけれど、ここにささやかな花をささげます。仕事の途中なので他になにもないけれど、今日はとても天気がいいね。見上げる空は青空で、雲が早く流れています。こんな日にみんなに会いに来れてとても嬉しいです。
父が大宮で働き、母が近所でパートに出てそこでたくさん友達を作って、おばさんたちのグループが一生の友達になっていった頃、ぼくと四歳離れた弟はいつもぼくにくっついて歩いて、愛嬌たっぷりに周囲を笑わせてくれていた。団地の長屋住まいだったあの頃が、思えばこの家族で最高に幸せだったのではないでしょうか。
ぼくと弟が三日違いの誕生会を一緒にやったり、庭には花が咲きほこり、雑種犬のジョンが庭につながれ、子供たちの布団には猫がはいってきて一緒に寝ました。お金はいつも窮しているのがわかったけれど、典型的な幸せいっぱいの家族の姿がそこにあったことをぼくは一生忘れません。
ぼくの息子も、あとになってそういう札幌の時代があったことを思い浮かべるのだろうか。それともさらにこれからも紡いでゆく家族生活の中でさらなる幸せのピークが来ることもあるのだろうか。それは今のところよくわかりません。
ただ、父、母、弟よ、あなたたちとの幸せな時間は永遠です、それが糧になり、ぼくは生きています。どんなに貧しくてもぼくや弟の教育に心血を注いでくれた両親にも感謝しています。道徳を教えてくれたことが一番嬉しいかな。おかげで曲がった道に誘われずとりあえず真一文字に道を歩いて来れました。これからも自分を信じて懸命に生きていきます。家族を守ってゆきますので、みんな、ぼくの新しい家族を見守ってね。お願いします。