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『ジウ』シリーズ続編登場

 必殺シリーズは影響力を持っているなあと、つくづく思う。必殺シリーズを現代に持ってきたコミックとして平松伸二の『ブラック・エンジェル』は直系のストーリーだと思うし、盗作だと訴えられる可能性だって皆無ではなかったと思う。
 そんな必殺シリーズの子孫の一つと言ってもいい作品、誉田哲也の『歌舞伎町セブン』を読了した。

 歌舞伎町セブン

 主人公を定めず、多重視点で紡ぐストーリーなので、真相を一番目撃するのは作中人物ではなく読者だ。隠れた闇の中で何が進行しているのかを目撃するのも読者。こういうストーリーテリングを<読者の知>、演劇では<観者の知>と呼んで多用されているのも事実だが、誉田哲也作品では、この書き方は珍しい。
 必殺シリーズでも時に盛り上げてくれるのは、ライバル・チームとの激闘シーンであるが、あの『ブラック・エンジェル』もホワイト・エンジェルとの死闘がクライマックスであった。
 本書でも、必殺チームは、ライバルチームらしい影に脅かされ、ふたたび浮上して来ざるを得なくなる。
 必殺チームは、既に解散して中年化しているばかりか、彼らは十三年前に、実際に起きた雑居ビル火災で仲間の大半を亡くしている、との設定。
 その他、クライマックスを、廃墟化した新宿コマに持ってきたりと、実際の新宿歌舞伎町の生きた時間と組み合わせたプロット作りが見事である。そればかりか、この小説は歌舞伎町という街そのものが主人公であると言えるかもしれないのだ。
 さらにこれは『ジウ』の続編として読むこともできる。一つには5年ほど前にテロ集団により歌舞伎町は占拠され、破壊されたとの記述があり、これは『ジウIII<新世界秩序>』のクライマックス・シーンである。現実の出来事に、作者自らがプラスしたフィクションも交えて、珍しい作品混交のサービスかと思っていたが、さらに読み進むにつれ、何気なく登場していた脇役の数人が、なんと、<ジウ>シリーズの主軸であったキャラのその後の姿だったのだと気づくのに、ぼくの場合けっこう時間がかかった。
 それに気づくと、本書の他視点の語り口や、街を活写することに描写労力を費やしていることなどの意味がわかってくる。作品は深みを帯びて見えてくるのだ。
 ページを繰る手が止まらず、最後まで楽しみをぎっしりと詰め込んだノンストップ・バイオレンス・サスペンスの秀逸なる一作である。