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凍眠小説

 古くはロビン・クックの名作『昏睡 -コーマ-』、手塚治虫の『火の鳥 宇宙編』などでお馴染みのコールドスリープ
 そんなテーマをついにテーマにした海堂尊の新作『モルフェウスの領域』読了。

 モルフェウスの領域

 ここのところ海堂尊のシリーズ作品を読みつつ、『チーム・バチスタの栄光』が傑作である以上に、シリーズ全体に影響をより強く与えている作品は『ナイチンゲールの沈黙』と『ジェネラル・ルージュの凱旋』の二作ではないだろうかとの思いを強くしている。これに加えて『螺鈿迷宮』か。というのは、今はなき救急病棟と、小児病棟として残ることのできたオレンジ新棟が、この後もずっとシリーズ作品で顔を出してゆくからである。
 奇しくも『アリアドネの弾丸』と本作では、『ナイチンゲールの沈黙』に登場した二人の男の子が手分けして登場、それなりに重要な役割を担うようになった。とりわけ本作の主人公は、あのアツシ君である。「ハイパーマンバッカスが瑞人兄ちゃんと小夜姉ちゃんと一緒にレティノザウルスをやっつけてくれるのであります」と可愛い声が今にも聴こえてきそうなアツシ君が本作ではコールドスリープのただなかにある。
 それを見守る管理人が涼子という新しいヒロイン。もう一人のヒロインは小児病棟の如月翔子ナース。もちろん高階病院長、田口先生もレギュラー出演している東城大学シリーズでもある。
 未来医療ともいうべきコールドスリープについて、クイックでスリリングなストーリー展開もさることながら、現役医師ならではの見識の深さと、問題、対応策などを知・情両面から描き切るというあたりが、この作家にとって腕が鳴るところだろう。さすがに素人では読み切れないコールドスリープの社会的課題と、それに向き合う政府や病院、患者などのそれぞれの視線が対立し交錯する紋様をこうして明確に切り出されてみると、ペンはメスより強しとの思いを強くする。
 メス以上にペンを揮う技術に長けた医師による、強い医療現場の思いと患者や医療スタッフの現場での戦いを、共鳴できる情感たっぷりに描いてくれたいつもながらの凄腕エンターテインメントである。