サスイシリの森
たんぽぽの群生が綺麗だった。牧草地が広がる石狩平野の片隅。初めて通る道。
石狩図書館に隣接した公園にこんな石碑が。「サスイシリの森」とあるのは何だろう?
裏に回ると、石の一角にはめ込まれたプレートが。「サスイシリ」の意味が、そこに書いてあった。
見ると沢山の人の名前が刻まれている。近所の小学校の児童たちの名前だとわかった。このプレートに名前を刻まれた子どもたちの、「サスイシリの森」に対する思いを想像すると、心の中で、いろいろな世界が広がった。
東京に出て、人生の荒波にもまれ、悲しみや苦しみを知り、人と出会い、別れ、後悔し、想い出も沢山作った。そんな人がふと石狩の故郷に戻ってくる。茨戸川の川べりを歩いて、図書館に歩いてゆく。
途中、思い出の「サスイシリの森」に出会う。自分の名前がプレートに刻まれている。忘れていた友の名前も刻まれている。
携帯を取り出し、もう何年も逢っていない同級生に電話をかける。
「今、サスイシリの森にいるのだけど……」
「えーっ?」という声色から、友の驚く気配がわかる。じん、と来る。
頭上で、とんびがくるりと回る。夏風が優しく吹きぬける……。
……そんな風にぼくは、この場所でいつの間にか、勝手に感動しているのだった。