シュンの日記なページ

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夕暮れの図書館

crimewave2008-07-14

 刷毛ではいたような夕焼け空を見上げながら、西に向けて車を転がす。薄暗くなった茨戸川べりを走り、石狩の図書館に着く。休館日のせいで灯りの消えた入口に、返却ボックスが真っ黒な口をあけており、そこに『ウォッチメイカー』を落とす。これが、ぼくの、今日という一日の終わり。
 朝から、ほっぺたをしたたかに打ち据えるような内容の電話を部下にかけねばならなかった。職場での人の問題は難しく、一言一言に胃壁が荒れそうになる。
 午後は外出。暑い札幌の街中へ。その帰り、拡張を続ける流通センターの未開拓地に車を停め、あれこれと携帯をまさぐって私用を片付けにかかる。
 さいたま市デイケアやデイサービスなど三箇所ほどに対して、未払い分の介護サービス料金の支払いについて問い合わせる。どこも振込手数料を気遣ってくれるおかげで、二週間後の帰郷の折に払えばよいということになった。
 近所のガス屋にプロパンの撤去を頼む。永いこと不在なので心配していたという優しい言葉とともに、振込手数料を引いて送金してくれていい、と言う。長年世話になった地元のガス屋である。
 NTTや役所に電話をかけ、貸与されているシルバーフォンの撤去を依頼し、立会いをケアマネージャーに電話で依頼する。
 東京電力と市の水道局に電話をかけ、電気も水も今日付けで止めてもらった。
 主を失った家が、どんどん機能を終えてゆく。
 電気会社には、取り壊しをする予定ですか? と聴かれる。ええ、まあ、と答える。いつですか? まだ決めていません。その際にはお知らせください。はい。解体業者さんからでもいいですから。ええ、はい。
 サイカンというのはさいたま市にある互助組合で結婚式や葬儀の資金を積み立てておくところだ。父がこれに積み立てておいたものを、ぼくは弟の葬儀に使ったことがある。今、母が途中まで積み立てていたものを、電話により、ぼくが引き継ぎ積み立て継続することにした。これはきっと母自身が死ぬ時に使うことになるもの。なめらかな口調でその辺りのことをオブラートに包むように説明する電話の向うの女性は、きっとこういう状況に馴れているのだろう。
 今日、仕事の他に、最も重い時間が完了する。でも明日はまたやるべきことがある。借りた本を夕闇に染まる図書館の返却ボックスに落とし込むようにして、ぼくは様々なぼくと母の借りたものを丁寧に、元の場所に返してゆかねばならないのだ。