飯寿司
「いずし」と読む。
朝、目覚まし時計が鳴る10分前に電話のベルがけたたましく鳴り響く。先に起きて朝食と弁当の用意をしている妻が取ったが、目覚まし時計が鳴る10分前の電話ほど憎たらしいものはない。
出かける間際に、息子のクラスメートであり大親友でもあるA太くんが包みを届けにくる。学校に行きがけ。今日は息子は既に出かけていなかった。とにかく彼が持ってきたものが飯寿司だったのだそうだ。
飯寿司、食べれる? 良かったら持ってゆくけれど。昨夜作ったのよねえ。
というような会話が、目覚まし時計が鳴る10分前にかかってきた電話の内容だったらしい。会話の主はもちろんA太くんのお母さん。ぼくのかかりつけの医院の看護婦さんでもあり、もう何度もぼくの採血を行ってきた彼女は、ある意味でぼくの静脈の位置を正しく知っている人でもある。
夜にそれを食べる。魚は鮭。酒が進む。ぼくは漬け物は基本的にあまり食べない。血圧が高いこともあり、避けている部分もある。でも北海道の漬け物は別。ニシン漬けも松前漬けも飯寿司も大変に好きだ。魚介類の入った漬け物はどうもねえ、という妻の声を尻目に、たっぷりといただく。
朝、目覚まし時計の前の電話の音でぼくを最も憤慨させた人が、夜にはぼくの心をすっかりなごやかにさせているのであった。息子は、本当にいい友達を持った。