旧友を見舞う

　お見舞いにゆく。消化器の手術を受けた友人なので、食べ物を見舞いに持ってゆくわけにも行かず、最近は花なども医療スタッフに嫌がられるって言うしで、手ぶらで出かける。こんなときでなきゃ近況報告が互いにできないなんて、少し違うよなあと反省しながらも、人生のところどころで点のように顔を合わせてきた長い高校時代のクラスメイト兼フォーク・バンド仲間であった人の５０代後半の顔を見る。
　ぼくが長く学生をやっていた時代も、楽器店で勤める彼の帰りを見計らって、家に転がり込んでは、吹き込んできた音源を持ち込んでは批評をもらったりしたものだった。一方的に送りつけるチケットを片手にライブ会場にも来てくれたっけな。ジャズを始めた彼から、亡き弟が在籍したディズニーランドバンドをベタ褒めされたときは嬉しかった。彼に保証人のハンコをもらった最初の結婚は失敗しちゃったけど、ちゃんと報告していなかった。いろいろな運命が二人を見舞ったけれど、ゆっくり話が出来て良かった。
　来月は一緒に長谷川きよしのライブを見に行こうと、退院祝いを早めに祝って、病院をお暇した。埼京線の窓から見慣れぬ景色を見つめながら、寒風吹きすさぶさいたまの空に思わず眼を細めた。