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『銀色の絆』 雫井脩介

銀色の絆

 雫井脩介による『クローズド・ノート』『つばさものがたり』に続く女性小説第3弾。
 前二作は非常に質の高い成功作だと思うが、二度もらった涙の三度目はなかった。というのも、三作目は、悲劇ではなく、実にストレートなスポーツ青春小説であるからだ。スポーツの中でも毛色の変わったフィギュア・スケートというのが本書の特徴だ。
 フィギュアという相当に特殊なようにぼくには思われるスポーツの、それを取り巻く環境の容赦なさのようなものが、甘ったるい少女青春小説とは一線を画す。夫と離婚しながらも、夫の財布に頼り、娘を銀盤の世界へいざなおうとする母と、才能を持ちながらも母の思うようには強い勝負心を持てない優しい心の持ち主である少女。
 二人の間の葛藤や、フィギュアというスポーツに、少女と母のほぼ全生活が傾倒されねばならない日々の過酷さ、その世界の特権性でもあり、閉鎖性でもあるような、独特の世界観、価値観、そんなものがごったに並べられてゆく物語。
 プロローグにおいて少女の未来が叙述されており、そこに至る回想の形式で物語は進む。人生の分岐点とも言うべきポイントがそこここに出現する中、少女は、母は、どの道を選び、どのように生きてきたのか。そんな語り口の一冊である。
 小説としては淡々としつつもスピーディに展開する中、母の判断や人生観などに疑念を覚えつつも、どこか危うい母子の絆がどのような未来を見せるのかという点への興味で引っ張られてゆく。
 派手さや展開の妙はないけれども、いつもながらのこの作家特有のしっとりとした語り口が、最初から最後まで好印象の一言である。物語の山と谷のコントラストがもっと深く濃いものであれば、さらに完成度は鋭さを増したものと思うが、逆にそうしたけれん味のなさが、この作家の魅力であるのかもしれない。