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『レイジ』 誉田哲也

レイジ

 青春バンド小説、である。
 そもそもこの作者に出会ったのは、2005年の『疾風ガール』。中ノ森文子をカバー写真に据えた、ガールズ・バンドの青春ミステリー小説であった。
 原点回帰か? それとも『武士道シックスティーン』の乗りの荒手の青春小説か、とそれなりに楽しみに読み始めると、いい意味でそれらすべてが裏切られてゆく快感がある、やはり作者ならではのこだわりロック・バンド青春小説は、独自なカラーに終始しているのであった。
 まず時代設定が古いというのが嬉しい。今を背景にしているのではなく、あのロック黄金時代を背景にしているのである。そんなバンドの中でいきなり主役の二人が仲間割れする。リーダーのワタルはロックの歴史にのめり込むようにコピー・バンドとしての腕を磨く道をまっすぐに進む。一方、歌と声質に恵まれた礼二は、オリジナルの歌へのこだわりが強く、バンドを脱退、ロックとは少し遠いが自作曲を少しずつ蓄えてゆく。どちらも主義主張が激しい中、時代のうねりは、少しずつ彼らに影響を及ぼしてゆく。
 そう、青春の苦い時期と、80年代という作者等身大の時代背景とを重ねた、これはノスタルジイ薫る音楽小説なのだ。
 嬉しいなあと思ったのは、ぼく自身が二十歳という年齢である大学の音楽サークルを脱退したときが、才能はともかく理由がレイジと同じであるということ。アメリカン・トラッドにこだわったスイング・アウト形式の音楽サークルに入ったのは、そもそも他にバンド活動をすべきサークルがぼくの大学になかったから。外部で音楽活動を続ける亡き友人の影響も強かったかもしれない。オリジナルにこだわるぼくは、サークルを脱退して、自分の曲を作り、ライブに臨んだものだった。今ではそんな気力が薄らいでいるが、いずれはそんな時代に戻りたいという意欲はどこかに仕舞い込んであるような気がする。
 閑話休題。二人は一線を画しつつ、決して交わることのない道を歩んでゆくのだが、音というものの魅力をこの小説はとことん語ってゆく。人間臭さも泥臭さも、人の強さも弱さも、なんだか、恰好をつけないままの裸の小説みたいに無骨で、親しみやすい。
 クライマックスは二人の交点になるのだけれど、そこに至る道程の複雑さが、やはり青春小説の書き手である作者のうまみなんである。
 ギターやマイクを持ったことのあるあなた、ライブステージの記憶が残像としてあるあなた、におすすめのロック魂がここにある。