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『光あれ』

 馳星周『光あれ』読了。

 光あれ

 ますますもともとの馳星周イメージから離れている。作者名にマスクをしたら読んでも、これが誰の作品なのだかわからないだろう。ハードボイルドでもないし、ノワールでもない。同窓会を起点にした青春回顧小説(つまり中年小説)という無理矢理のジャンル付けをするしかないだろう。鳴海章の『凍夜』という作品に類する。『凍夜』は帯広に戻ってきてクラス会に出て青春のあれこれをつなぎ合わせる物語だ。それに類するが、どちらかといえば、ぼくは鳴海章の『凍夜』や『風花』ほどには、馳の本書は長く心に残らないだろうなとの読後感がある。
 馳星周が、なぜ原発のある街をテーマに書いたのか、あるいはなぜ北海道の泊ではなく、敦賀を舞台にしたのか、作家と題材の繋がりの希薄さを感じざるを得ない。そしてただただ重く、暗く、そこに何らかの処方も施されていないばかりか、なぜそれが書かれなければならないかがわからないし、テーマもモチーフもわからないし、さらに言えば、あまり面白くはない。
 人生の達人が人生の重たさを粛々と語り紡ぐ嘆き節のような一冊であり、そこに『光あれ』というタイトルは、最低限の作家の譲歩と言える救いなのかな。どの登場人物も幸福にほど遠いように思われ、その中で恋愛も死も、連作短編という形だからこそ中途半端で語り切れていない居心地の悪さを感じる。
 いろいろな制限があったとするならば、また何度でも脱馳ノワールへの果敢なトライを続けてほしいし、そうした新ジャンルでの成功を願う。