『百万遍 流転旋転』
上下巻読了。花村萬月バージョンの『人間失格』みたいな話だなあとしみじみ考えていたら、主人公が作中で人間失格という言葉を使い始めた。上巻はほぼセックスに終始し、下巻はほぼ覚醒剤に終始するのだが、クスリの描写は興味も経験もなく、読んでいて面白くないな。
しかし、本人の自伝的小説ということで時空を現実にきっと合わせて書いていることから、内容も相応に現実体験の縛りを受けて書かれた重たい作品であるということは感じられる。
この主人公・維朔の子供バージョンである『少年曲馬団』の後日談が本書で語られる他、『百万遍』の前2作『青の時代』『古都恋情』など、旧作のエピソードにつながる部分も当然出現する。もう誰が誰だったのかうろ覚えの中でこの大作をシリーズとして継続読みするのは、整合性という見地からはとても辛いものがあるのだが、そういった点を無視してもなお読み進む推進力は、花村作品であるからこそ確実に秘められている。
少しラストに向けて、人が多く出すぎたり、エピソードが細かく割られたり、せわしない印象がある部分、上巻の一途なラッシュ感が失せたように感じられるのが残念だが、シリーズ全体を通して、当時の時代背景などが懐かしく、同時代の青春を別のかたちで生きた人間として、自分を鏡のように見据え直す機会としても本書を愉しむことができる、という妙な魅力をも兼ね備えた大作である。
大作でなければできない何かを果たしているようにも思うが、京都だけで三部作とまとめ上げて、はい、終わり、という感じがしないところも意味深に思われてならないのだが。