目撃
ガードレールに思い切りぶつかって車が止まる。
ちょうどその上の窓からぼくは下を見下ろす。運転席から、運転していた男がおりる。手には、プルリングを開けた缶ビール。泡が出ている。男は車に戻り、他のビール缶も持って出る。飲みかけのビールを事故現場に注いで空にする。
同僚が、警察に通報している。住所とナンバーを読み上げる。
男は、ビールの缶を自販機の横の缶専用のゴミ箱に投げ込む。車を少し直す。またふらふらする。
飽きてしまったので、ぼくは窓辺を後にする。
しばらくすると同僚の声。
逃げた!
窓辺にゆく。本当だ。車がない。
同僚が警察に通報する。早く来ないから、逃げました。もう15分くらい経っていると思う。
さらに10分後くらいに警察がやってくる。ゴミ缶を同僚がいじろうとすると触らないで! という。触らないでくださいだろ、馬鹿野郎、とぼくは思う。どうも警察が嫌いだ。
タイヤ痕がくっきりと道路に残っている。ぶつかったときの曲線。逃げ出すときの蛇行曲線。こんな車を野放しにしやがって。馬鹿警察め。今頃、園児の列にでも突っ込んでいるんじゃないだろうか、くらいのことを考えないのだろうか、こいつらは。
のんきに型通りの事情聴取を同僚に行っていて、無線連絡さえ取ろうとしない3人の警察官のあほ面に、無性に腹が立ってきて、ぼくは仕事場に戻り、車のキーを手にして、職場を後にした。なんだかなあ……。