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ARAKURE

 ARAKURE あらくれ (ハヤカワ・ミステリワールド)

 矢作俊彦+司城志朗『ARAKURE あらくれ』読了。
 実はハワイに行く前に読了手前まで行っていた本。しかし海外にハードカバーを持ち出したくなったので、ドン・ウィンズロウの『夜明けのパトロール
を持ち込み、ハワイで無事そいつを読み終え、続いてデニス・レヘインの『ムーンライト・マイル』に取り掛かってしまったのだ。何もかも、ハワイのせいである。
 しかし矢作と司城の名コンビといえども、時代小説はどうなのかな、と思う。というのはせっかくのレトリックに満ちた矢作の現代文学ならではのレトリックが抜け落ちて、凡百の時代小説文体になってしまうのは、やや興趣を削ぐ。
 ただ彼らが書いてきた物語の世界がないわけではない。坂本竜馬土方歳三と出会いつつ、義賊として駆け巡る男二人女二人のコンビネーション、凶状持ちとして追跡され追い詰められてゆく様などが、股旅版『明日に向かって撃て』となっているあたりは、転んでもたたでは起きない手練れたちの技であるのかもしれない。
 あるいはレトリックに甘えずに王道から攻めてゆく自信のようなものなのか。彼らのかつての伝説の三部作という重みは最近の作品群にはないにせよ、体力勝負から技術主体へと転換を図った熟年ならではの味が滲み出てきているのっは確かである。
 しかし、三人の幕末アウトローを描きながら、幕末という名の美化された政治闘争とその醜さのようなものを、新選組の拷問シーンなどに絡めて匂わせたりするあたりは、世界への矛盾に怒りを見せる矢作的側面か。
 自分は在日日本人だ、と豪語する矢作は、維新以来の日本は薩摩と長州に乗っ取られた被占領国であるとの意味を込めて、正義ではなく利害によって大政奉還が画策された醜さを衝いてゆく。そんな彼の怒りの側面を感じさせる終盤が何とはなしに反骨を感じさせつつ、日本にしか属さない庶民である主人公たちのもの悲しさを浮き彫りにしている気がするのだった。

 PS.残念ながら今日は浦和レッズガンバ大阪戦については触れたくありません。