少年の心もて、書き綴れ!
矢作俊彦『引縕/ENGINE』読了。
ファム・ファタールというより、殺戮の天使と呼びたいようなヒットウーマンを追いかける刑事の運命。
とにかく面白い。すべてのページにハイテンポなアクションが詰まっている感じで止まらない。
矢作ソロ作品で、しかもおちゃらけない、ハードボイルドが、ここ数年定期的に出版されているので、毎年、このミスのトップが矢作になってしまう。そんな依怙贔屓はダメとは知りながら、やはり圧倒的に矢作のカリスマぶりに惹かれるのである。
毒をいっぱい持っているのに、コアな部分が少年のようなピュアな騎士道精神であったりするところがやっぱり他を圧倒しているような気がするのだ。
失われて久しいダンディズムが頼もしい限りだ。
物語が破綻を繰り広げ、登場人物がどんどん滅び去ってゆく気配のなか、バイオレンスが迫力を増し、情念や虚無が去来する。アジアンな黒い夜の中を、溶け出すような精神を引きずりながら、刑事はそのすべてを殺戮の天使への盲目的な恋に捧げてゆく。
大がかりな銃撃シーンと爆破シーンがいつもの矢作とは違う気配を醸し出すけれど、破滅の美学は今日も健全だ。かつていくつもの破滅のノワールを作り出していた矢作というハードボイルド・ライティング・マシーンが、大人の成熟に余裕のエンターテインメント風味で語りつづってゆく、文句なしの活劇ロマンなのである。