シュンの日記なページ

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病床に本

 今日も通院してネブライザー療法にてステロイド吸入。さらに夜に喘息発作になることを訴え、家庭用ステロイドの吸入セットを処方してもらった。胸のレントゲンを取ったら、今になって始まった話じゃないんだけど、心臓に負担がかかっているとのことでCTスキャンを進められ、レントゲン映像をCDに焼いて紹介状とともに持たされた。
 つい最近母親の心臓の映像ばかり見ていたけれど、遺伝でうちの家系は皆心臓だなあと葬儀の後の精進落しで従兄弟たちが騒いでいたばかりだったんだ。だから覚悟はしているとは言え、憂鬱ではあるなあ。
 今日は熱は37.4度くらいで推移する。下がりはしないみたい。当然仕事も休んだけど、今日が限界だろう。明日はなんとしてでも仕事に出なきゃ。
 今日は眠気もあまりないので、横になって本を読んでいた。感想以下の通り。
香納諒一『噛む犬 K・S・P』

噛む犬 K・S・P


 10作続くというシリーズは3作目。毎作毎にどんどん良くなってゆく感じがする。
 しかし、本来の荒削りな香納諒一の味わいというのは最近の小説には感じられなくなってきていて、むしろプロットのディテールにまで拘った、完全主義的な凝った小説作りが前面に出てきていることが、この作家にとってはていいのかな? との疑問も感じる。いわば小説の技に走っているのかな、という点で、本来この作家の作品に必ずあった情感のようなものが、謎解きや凝ったプロットの後ろに隠れて優先順位が低めらたように感じられていたのだ。
 このK・S・Pシリーズは、スキンヘッドの刑事という捜査上聞き込みなどでは相当不利だろうなあと思われる強面おじさんを主人公にした、歌舞伎町特別分署の物語である。分署というだけでエド・マクベインの『87分署』を思わせるが、もっともっと凝った話になっているのが、このシリーズであり、この作者なのである。
 成熟した警察小説という意味では、相当の読み応えであるし、ストーリーも奥の深さをしっかりと湛えており、力が入っている。分署ものというには少し大がかりな嫌いがあるが、現在の作者は軽いものは残念ながら書こうとはしていないようだ。
 読む側にとっては少々しんどいので、最近の海外小説みたいに、内容は優秀だが重過ぎて売れない、って傾向にならなければいいが、と心配する。ぼく自身、最近はこれほど綿密に文字数やページ数を費やさずとも十分に人を感動させる警察小説を書いている作家に何人も出くわしているので、この手の正攻法というか、海外ミステリばりの重たさを感じさせる作品がしんどくも感じられる。
 でも、さすがにストーリー、プロット、人物たちの描写は見事なのだ。特にチームを率いる向井貴里子の女性ならではのハンディと男たちとの軋轢、先輩女性刑事の死という心の負担をいかに処理して、一皮向けてゆくかといった成長プロットが素晴らしい。
 さらには引退した助川という組長は、実はこれぞ香納諒一の世界に活き活きとして書かれてきた素材という意味でとても懐かしい。また江草綾子という小料理屋の女将は魅力的で忘れ難い。
 複雑なプロットに埋もれそうになっているこれらの人物一人一人の人生を物語るだけでもいい仕事になるような気がする。スケールを縮小して、もう少し庶民的な地平にこの作家には戻ってきて欲しいと思うのはぼくだけだろうか。香納諒一という作家がそうした弱い側の論理を描くことにとても長けていることを知っているだけに余計にそう思う。

ロバート・B・パーカー 『夜も昼も』 山本博

夜も昼も(ハヤカワ・ノヴェルズ)

 パーカーの訃報を聞いて以来、一冊もパーカー作品が読めなくなっていた。死後に翻訳された新刊が続々書店に顔を見せるたびに必ず手に取り買い込んで来たのだが、もうこれで終わりなのかと思うと、それらを読んでしまい、終わりにする気になれなかった。
 でもいつまでもくよくよ嘆いている場合ではない。一期一会だ。今、ここにある本を読まねば。今日は、躊躇う手を書棚に泳がせた結果、ついに一年も経ってようやくパーカーの作品に再会したのである。
 本書はジェッシー・ストーンのシリーズ。パラダイスという田舎の警察署長というシリーズでありながら、本書は驚いたことに事件らしき事件がなかなか出てこない。女子校の校長がスカートをまくって全員のパンティを検査したことによる騒動から始まって、娘が両親のスワッピングに悩んでいることを打ち明けに来たり、その一方で覗き魔が横行したりもするが、いつものように何かの強盗事件が起こるとか殺人事件が発生するということがまずないのである。
 今回のテーマはいずれにせよセックスがらみの問題ばかりがジェッシーの元に寄せられている。
 その中で、ジェッシーの元妻ジェンは、ふたたびジェッシーを捨てて、ニューヨークの仕事と新しい男に向かって去ってしまう。毎度毎度、妻となぜセックスだけを重ねていつまでも未練を残しているのだろうとこちらがいやになるほどのジェッシーの思い切りの悪さだったが、本書はこのシリーズ開始以来の大テーマにも大きな転換を迫ることになる。
 いや、むしろそのために精神の旅を繰り広げてきたジェッシーが本書においては最後の航海を行うことになるのであり、田舎町で起こる様々なできごとは、ジェッシーの心模様を明確に切り分けるための材料であるかのようにさえ見えてくる。
 男と女という問題、子供たちの問題、そして警察署長という職業の問題。それぞれの問題をジェッシーが整理し、解決してゆくことがこの作品の読みどころであって、下手に犯罪が起こるよりもよほど読み応えのある一冊となっている。
 どこまで混沌としてゆくのだと不安さえ覚える展開を見事にまとめ切り裁いてゆくジェッシーのデリケートな手腕こそが本書の読みどころであり、ラストシーンはまさに新たな旅立ちのように思える。さらに一作翻訳作を残しているので、これを読むのがまさしく楽しみだ。