寺にて
弟を埋葬した寺を訪れる。
この寺の前住職の一人娘として同級生のMは生まれ、ぼくの弟と同級生だった妹は、小学生の頃通学の途中でダンプにはねられて亡くなった。後にぼくの弟もバイク事故で亡くなってしまったから、お互いに弟妹を亡くした同士である。
弟の葬儀は、この寺を継いで間もない若い住職に任せたのだった。当然Mの婿として嫁いできた人である。その僧侶に対し、弟の葬儀以来、21年ぶりにふたたびぼくは葬儀を依頼する。
あの頃は母があれこれと指示するのを翻訳してぼくが取りまとめたものだが、今回はその母の葬儀についての打ち合わせだ。
長い時間を、いろいろな話で過ごす。
帰りがけにもらったばかりの線香を使って、弟の墓に手向ける。供花を用意してこなかったので、10日くらい前に妻子と訪れた際に供えた花を少し整える。ごめんな、と呟きながら。
お母さんが一緒に来るので、宜しく頼むよ、と弟に告げ、暑いくらいに晴れた春の日差しのもとにぼくは踏み出してゆく。