南会津の朝
よく考えたら亡き父が渓流釣りで活躍した場所がこの南郷一帯なんだよなあ、とか思い出す。その後でどんどん田舎暮らしに憧れた親父は、宮城と山形と秋田と岩手の県境みたいな栗駒山の麓で古い家を買って住み着いたんだ。そして釣りの日々、イワナを剥製にして飾ったりして本当に酔狂だった。
朝、暗いうちに先輩に叩き起こされると、宿主は既に外で雪かきをやっていた。
木賊温泉に向かい、憧れの露天風呂に到着。冬場は川との間にプラ板が張られているのが残念だが、川面に降り積もる雪を見て入る鄙びの湯は、なんとも眠気覚ましにたまらない。
宿に帰ると朝食が待っていた。美味しいご飯。美味しい納豆。蕎麦粉で作ったという宿主手製のシフォンケーキがデザートでコーヒーともども美味しかった。
天井裏に昔の農機具やスキー、かんじき、糸巻き機などが並べられていて、楽しくそれらを眺めさせて頂く。旧家は面白い。
いよいよ宿を離れる。
宿主は既に茅葺き屋根にハシゴをかけて、雪下ろしを始めていた。宿にも山の仲間たちにも名残惜しいのだがあいにく、ぼくは用があって先に出発する。さらばふるさと。