シュンの日記なページ

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孤独な庭で

 あいつは高度でいうとどのくらいのところを飛んでいるのかね?
 元トラックを転がしていた74歳の知人が電線の遥か上を飛んでゆく銀色の機影を見上げて言った。
 高度8000mに達したところで、多分新潟か小松のどちらかの空港に向かっているんじゃないかな。とぼくは無責任に答える。
 なぜそんなことがわかるかというと、ぼくは北海道から来たのです。毎月あの上を飛んでいたが、札幌にゆくには羽田を飛び立ってからもっと北に向ったものだから。あの飛行機はもっとずっと西に逸れているように見える。だからきっと北陸の方向に向かっているね。
 あの窓から見下ろすと、ここが見えるんです。関東一円が見える。渡良瀬遊水地なんかくっくりと見えるし、荒川や利根川水系なんか、ずっとよく見える。東京を飛び立ってしばらくすると大抵は雲に包まれるけれど、晴れた日の関東平野はそりゃあ見事に見えます。
 老いたる知人は、大学を出てIT会社に進んで部下25人を持って課長となった息子の話で大方終了した。というのは彼には孫が独りもいないからだ。子供もその出世頭の息子独りなのだが、少子化の責務を絵に描いたように独身で子供はいない。
 爺さんは寂しそうに俯いて暮れなずむ庭先で腕にたかろうとするブヨを追い払った。
 じゃ、また寄るから、元気でね。ぼくは息子より少し上の年齢だけれど、こういう家に小さな子を連れてこれたらこの人はすごく喜ぶんだろうなと思う。もう、ぼくにも、小さな子はいないけれど、自分に孫ができるときまでこの孤独な知人が生きていたなら、その小さな子を連れて、立ち寄れたらいいな、と思う。