さらばギル・グリッソム
『CSI 科学捜査班』の録画が溜まっていたので、ワールドカップお休みの今宵は鑑賞としゃれ込む。つまみは、ささっと作ってしまえるマカロニサラダとジャガチー(どちらも一ヶ月ぶりくらいなのだよ)に冷奴を少し。
でも何だよ、何なんだよ。あのマトリックスのローレンス・フィッシュバーンがレギュラー入りするとは聞いていたけれど、ウィリアム・ピーターセン演じるギル・グリッソムが退場してしまうなんて、全然聞いていなかった。
ピーターセンが番組後のインタビューでこう言っていた。
「9年間も同じ仲間たちと一緒に毎日顔を合わせていて、幸せだった。でもその安らぎの中にいつまでもいるわけには行かないのが役者だと思う。ギル・グリッソムは死んだわけではないし世界のどこかにいる。この後、CSIのどこかでギルが復活したり、少しだけ顔を出したりするのかもしれないが私は先のことは聞かされていない」
ウィリアム・ピーターセンという役者は、『LA大捜査線 狼たちの街』の主演男優として、強烈な狂気を見せてくれた俳優である。監督はあの『フレンチ・コネクション』のウィリアム・フリードキン。
そのフリードキンがメガホンを取ったCSI 第200話 第9シーズン#18『アル・カポネの椅子』も凄かった。
その後ピーターセンは、トマス・ハリスの『レッド・ドラゴン』を原作にした『刑事グラハム/凍りついた欲望』で、やはり執念のプロファイラー役をやってみせてくれる。
その頃はB級映画かと思ってレンタルビデオで鑑賞したものだけれど、監督はなんとマイケル・マン。B級どころではないじゃないか。グレアムというFBI捜査官は、その後の『レッド・ドラゴン』でエドワード・ノートンが演じた役である。でもピーターセンの方が印象深い。ちなみに『刑事グラハム』は、後の『レッド・ドラゴン』にあやかってかどうか知らないが、DVDのタイトルを『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』と、『羊たちの沈黙』までを合わせた時代のヒット作におもねるようなタイトルに改題し、さらにB級映画的誤解の種を撒き散らかしている。日本のメディアって、本当にバカだ。
さて、そのピーターセンは、CSIで大人しい中年オタクに変貌を遂げてしまったが、その優しげな瞳のどこかに狂気の色を少しだけ宿しているあたりは、役者の本質的な巧さがもたらすものなのだろう。この役者には少しだけ入り込んでくる狂気の輝きがよく似合う。
ピーターセンは、いつの間にか、野獣のような若き刑事から、ギル・グリッソムという昆虫好きな中年おじさんに同化していった。そんなギルがCSIを去ってしまった。これではいけないと思いつつも、ワールドカップの日本チームの敗戦以上に、涙がこみあげてきた。