クリント、やめてくれ!
『グラン・トリノ』を見る。クリントよ、イーストウッドよ、やめてくれ、もうわかったから、と叫びながら、涙が流れてしまう自分がとても悔しかった。映画に、乗せられてしまっている、というのか、目論みは明確なのにわかっていなら心が引っ張られるというのか。
人種問題に高齢者問題などを引っ掛けつつも、基本は、ハリウッドの基盤のような作品である。 自分の死の頃合を悟った老犬が、最もいい死に場所を考え尽くし、最高の勇気を振り絞って若い親友たちにそれを見せつける、という典型的に格好いい映画なのである。
もちろん、セルジオ・レオーネが描いた名無しのガンマン・ジョーでも、ドン・シーゲルの生み出したダーティ・ハリーの格好よさでもない。
敷いて言えばイーストウッドの若き監督時代に、主演した彼が肺病病みで死に場所を求めるミュージシャンだったあのB級だがとても忘れ難い作品『センチメンタル・アドベンチャー』だろうか。いずれも子供、若者と、死地を悟った者との出会いと別れを描いたものとして強烈な印象を野残す。
そんなクリント・イーストウッドの演じたり作ったりしてきた作品たちの歴史を思いながら、このシンプルなストレート・ストーリーにやられた。泣かせるなよ、クリント、頼むから、こんな脚本、こんな演出、こんな素晴らしい演技はこれ以上やらないでくれ! そんな思いの中で映画は、まさしく容赦なく、シンプルで、何よりもストレートだった。