大切なひと時
札幌に帰るときには北海道を舞台にした本は持ってゆかない。もったいないのだ。
東京で暮らす中で北海道の本を読んでほっとしたいのだ。だから通勤のときは、佐々木譲、東直己ほか、北海道を舞台にした本を好んで持ち歩く。
今は花村萬月の『私の庭 北海無頼篇』を持ち歩いているが、750ページを越える大作であり、お弁当箱のように大きい。おっと、今はお弁当箱もこんなには大きくないぞ。とにかくシートに座らないと読めない大きさ、重さである。シートに座って膝の上にどかっと広げると周囲の人がぎょっとする分厚さだろう。少し得意げに開く本。
その中には北海道の大地、原野、季節、風の匂い、その他がいっぱい入っている。そんな北海道を懐かしみ、いとおしむ時間こそが、ぼくの大切なひと時でもあるのだ。