亡き弟に
今日は床屋で寝てしまった。
疲れがピークだ。朝、誰かが尋ねてきていたが、起きて出ることもできなかった。
でも結局そのまま起きだして、洗濯と朝食とを同時並行に進める。甘口の鮭を焼いたのだが、北海道の生鮭に馴れている体には、やはりこちらの切り身は塩辛い。
三日前の北茨城の葬儀の帰りに頂いてきた花を捧げに、弟の墓に出かけた。コンビニで線香と百円ライターを買い込み、寺の裏手にある墓地へゆく。人気のない午後。深々と冷える。
墓石を雑巾で洗い、問いかける。
亡き弟に。
今、自分にとり大切ないろいろなことを。悩みを。弟への感謝を。惜しむ気持ちを。永く過ぎ去った時間のことを。死んだおまえ、生きている俺。そんな暗い川のこちら側と向こう側とで。
クリスマスが近づいているが、家族とともに過ごせない悲しみについても伝える。生きていれば、おまえはディズニーランドバンドの一員として、エレクトリカルパレードの一団に加わり、ウールのロングコートにくるまってサックスを吹き鳴らしていたのだろうに。そんな古い写真があったよな。お前は輝いていたのに、今はここで眠っている。
花を捧げ、水を注いだ。なかなか線香に火が移らず、指先を焼けどしてしまった。墓参りなど、独りでくるものではないな。
そのままさらに北の町に走り、床屋で髭を当たってもらっている間も、いつもよりずっと長く肩を揉んでもらっている間も、ぼくは寝入ってしまっていた。その疲れを感じてくれたのだろう。彼女はいつまでもいつまでもぼくの肩の張りに挑んでくれた。こんな床屋ないよな、と眠りの中のどこかで思っている自分がいて、さらにほっとしてぼくは寝入ってしまうのだった。