シュンの日記なページ

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不思議なチャンバラ世界

 何にせよ、お気に入りの作家や映画監督が日本を舞台にすることは、怖いものだ。あのリドリー・スコットだって、『ブラック・レイン』の日本はどこの時代のどこのファンタジーだと思えるようなものに変えてしまった。小説ではクライブ・カッスラーを読みやめてしまったのは、ダーク・ピットが日本に来てからだ。ジェイムズ・ボンドが浜美枝の海女さんとラブシーンを演じてからこの方、リュック・ベッソンが送り込んだジャン・レノの『WASABI』まで、有名ヒーローが日本で活躍しようとするとろくなことはなかった。
 だから大好きなスティーヴン・ハンターのボブ・リー・スワガーが日本にやってきて剣を振りかざすなんて設定だけで、読むのが怖くて一年も置いてしまった。ボブ・リーはこの後、『黄昏の狙撃手』という新作でテネシー州で無事銃撃戦を繰りげるのだと知って、それを読みたいあまり、仕方なくその間に立ちはだかる『四十七番目の男』を手に取ることになった。

 四十七人目の男〈上〉 (扶桑社ミステリー ハ 19-14) 四十七人目の男〈下〉 (扶桑社ミステリー ハ 19-15)

 ハンターはどうもアメリカ映画に愛想を尽かしてしばらくの間日本の剣戟映画ばかりを見てしたらしい。確かに日本映画の殺陣は世界に誇るものがある。冒頭にいきなり日本映画の監督俳優たちがずらずらと並べられているのを見ると大体何の映画を見たのかがわかる。古くは黒澤映画から、何と『アズミ』まで見ているではないか。でもこの長いリストのなかに緒方拳や勝新太郎の名前がないのは日本映画ファンとしては捨て置けないぞ。
 とはいうものの、剣に対するこだわりは、この作家が銃器にこだわるのと同様に凄まじく、そのこだわりこそがガイジンの書いた日本のアクションなのかなと思われる。剣で闘う雪の夜の一団はタイトルが示す如く、作者が惚れこんだ赤穂浪士へのオマージュといった趣。
 冒頭、ボブ・リーが曰くありの刀を入手する経路として、父アールの硫黄島での戦闘が描かれるのもクリント・イーストウッドの映画を思わせて面白い。全体として、チャンバラを使ったにしてはボブ・リーの物語になっており、やや『ブラック・レイン』的な西洋人視点での呪術的世界傾向はあるものの、現代の日本に最新技術を駆使してCIAや自衛隊を登場させるなど、無理やりにしては楽しい活劇を展開して見せた。さすがハンター、とその徹底した凝り性ぶりに喝采を贈りたくなってしまった。
 ただ、刀を武器として語るシーンが多いせいか、血腥いイメージがつきまとい、どうも暗いものがじわっと皮膚を撫でる。この世でもっとも残酷な武器というイメージさえ浮かんでくる。
 なので、口直しにぼくは次の本を取る。そう、明るく楽しい青春女子剣道小説、誉田哲也の『武士道エイティーン』を。