『函館水上警察』
高城高『函館水上警察』は、『このミス』で第2位に投票した作品。創元推理文庫で高城高全集全4巻が復活したのは昨年のことだが、この人が改めて新作を書くことになった。高城高全集では、釧路や仙台でのブンヤ時代の経験に基づくハードボイルドがメインだったのだが、何と高城高のふるさとは函館だったのだそうで。
函館といえば、昨年の今頃は、毎週のように通っていた町で、ぼくにとっても思い入れたっぷりの忘れられない町である。ましてや父親の育った町でもある。
その町がまだ維新後間もない北海道開拓の時代、世界の海洋地図を塗り替える中心として活き活きとしていた時代の頃のことがこの小説の背景である。帆をかけた外国船が湾に係留し、町には欧米の文化が入り込んでいた。北海道の入口であったその当時の函館特有ならではのここで取り上げられる事件の数々は、実際に文献を紐解くと現実にあったらしきものばかりであるそうだ。
そうした古い資料と睨めっこの末に出来上がった並ではない作品が、一旦筆を折った巨匠が半世紀の後に作り上げた新作だというのだから驚きだ。このように作品を大切に書き上げる作家が、日本にどれだけいるだろうかと想像しただけで、その貴重さがわかる。
伝わるのは、その時代の函館の息吹。今もあるエキゾチックでレトロな建築物の数々は今も函館の坂の上に残るものばかりである。そうした現代に繋がる少し前の昔を描くだけで、現代には失われて久しい人間の活力のようなものが、まざまざと甦る。作家の筆力というのは凄まじい。
ラッコの密猟者やロシアから逃げてきた海洋民族たちも凄いけれど、犯罪を取り締まる水上警察の我らがヒーローも、アメリカ西部で放浪の果ての用心棒をしてきたり、と凄まじくハードボイルドな設定である。今にない世界レベルの都会としての函館の姿が、別な意味での魅力を持って匂い立つような気品を届けてくれる一冊である。