ニセコ初秋
妻の仕事車が空いた。しかも息子は部活がない。
では、と午後からどこか温泉にでもという話になる。
息子は写真部でもあるので、ではニセコにでも行っていろいろ風景を集めて来よう。ええっ、そんなに遠出するの? と妻。確かに遠出だけれど、あの辺まで行かないと秋はまだ見つからないだろう。
昨年登ったニセコの山の話、昔、息子が小さな頃にすべったアンヌプリスキー場の思い出、それよりずっと前に妻と訪れたポテト共和国、などなどの我が歴史を説明しながら、息子にそれぞれがゆかりの地であることを伝える。
秋を伝えるには前景にススキの穂を入れたアンヌプリがいい、でもススキの穂は逆光で撮る方がいい、紅葉も逆光が冴えるし、青空を背景にした紅葉も凄いぞ、などと自分なりの写真撮影のコツを伝授する。
温泉は今まで、いつも五色温泉を贔屓にしていたのだが、初の雪秩父を体験しようとなる。鉄鋼泉と硫黄泉との二種類、5種類くらいの露天風呂に、2種類の内湯、と温泉に関しては贅沢極まりない500円の日帰り温泉。施設は古いけれど、このくらい野趣溢れる湯もなかなかないと思う。
雪秩父の駐車場からは大湯沼が見え、そこを風呂に入らず通り過ぎてゆく団体旅行客がバスガイドの案内を受け、空しそうだった。
さらにニセコ・パノラマラインを登り、昨年ぼくが山行途中で足を攣りぶっ倒れた駐車場、歩いて辿った大谷地への道などを息子に説明しつつ神仙沼へ行く。
レストハウスからまずは長沼へ。ここでは息子に背後から写真を撮られたみたい。前回は、ちびっ子だったので、息子はチセヌプリの麓に広がる長沼も神仙沼も全く記憶にないという。
神仙沼は、透きとおり、対岸の紅葉を水面に映す姿が名の通り神秘的だった。神仙沼に至る木道の散策路は、まるでミニ尾瀬である。
ニセコ・パノラマラインを岩内に下る風景は何物にも代えがたい。積丹半島と泊の原発、共和町に広がる田園風景といったパノラマがまさに一気に拡がる。前景にススキを配し秋を表わすという今日の教えを守り、息子がシャッターを切る。ぼくも負けずにシャッターを切る。陽は山の端に落ちてゆく時刻であった。