バスガイド対トレンチコート
今週初めて早く帰ることができたので、家でゆっくり夕食を作ろう、と思ったのだけれど、どうしても焼きとりを食べたくなって、自宅直前の店に引っかかってしまう。
数人しか入れない小さな店なのだが、若い女性が二名まぎれこみ、ホンワカムードになった。二人とも近所のバス会社のバスガイドだそうで、うち一人は仕事をやめ西川口のスナックで勤めているのだそうだ。
そんなことはぼくが直接話したのではなく、店の大将と、自分もバスガイドだったんだという気持ち悪い中年男が聞き出しているのを、傍らで聞いていただけだ。中年男と大将は二人ともTキョー高校出身。大将は野球部だと既に知っていたけれど、中年男はよくわからない。四代後半と思われるがやや長髪で顎鬚にピンストライプのスーツという野暮ったい姿がどうも軽薄で、実際女の子たちと話し始めるチャラオぶりには少しげんなりする。
一そろいのもつ焼きとホッピーを二杯飲み干したところで、店を出ようとすると、西川口のスナック勤めの女性が、ホッピーの人、またねっ、おっ、そのコート青島刑事みたいじゃん、となれなれしい。確かにアーミー・グリーンの大振りなトレンチは、これまでも踊る大捜査線とか青島さん、とか言われたことがある。そのたびに答える。これはそれよりずっと昔に俺が買ったコートなんだよ、と。そう30年も前に買ったんである。当時はわれながら似合わないと思っていたが、今ではすっかり体の一部だ、冬には。
ときには、草っぱらで、こいつにくるまって眠ったこともある。終電を逃して。
コートも古いが、いまどきバスガイドだっていう女たちも、職業としては十分古いんじゃないだろうか。