Happy birthday to you!
息子はふざけた声で電話に出た。幼い頃から今もずっと息子は父にそうする。
こちらはいきなり「はっぴいばーすでいとぅゆう!」とささやく。
あれ、そうだっけ? と照れる息子。
誕生日を忘れていないって証拠と、
ぼくは囁く。
明日の受験も忘れていない。頑張るんだぞ。
うん。わかった。
じゃあな。
電話を切ると、木枯らしの夜が目の前にあるだけ。
でも、息子よ。
君が5歳か6歳の頃、君は浦和に帰省しており、ぼくは札幌の行きつけの酒場で君の電話を受けた。お前は「父ちゃん、誕生日おめでとう」と受話器の向うで呟く。
妻に代わると、「私は忘れてたけれど、この子が覚えてたんだよ、あなたの誕生日」だと。
酒場は盛り上がり、皆でハッピーバースデイ! と騒いでくれた。
今は、ぼくが浦和から電話で、息子よ、君におめでとうを贈るのだ。