さすらいの航海
ときどき深夜のBSあたりで、今ではDVDにもなっていないかつての名作映画をやっており、ぼくはそれを録画して休日に観たりする。最近では『ナッシュビル』や『バニー・レークは行方不明』など。まだ観ていないが『華麗なる大泥棒』も。今日は、『さすらいの航海』を、劇場公開(1976年)以来、初めて観る。
あの頃は、十代だったので、わかりづらかった部分が、今、さまざまな社会体験を経て観ることで、いろいろ深く味わえるものがある。マルコム・マクダウェルがリン・フレデリックと心中するシーンばかりをよく覚えているが、今、見ると、マックス・フォン・シドーの船長、オスカー・ヴェルナーとフェイ・ダナウェイなどの演技が、やはりいい。オーソン・ウェルズやフェルナンド・レイの冷たい役柄も凄いが、キャサリン・ロス、リー・グラントなどもこの頃の映画ではよく出演していたな、と感じるものがある。
ナチスが世界へのプロパガンダのために行った茶番とも言えるユダヤ人千人のハバナ移送計画は、ハバナ側の受入拒否により(何せ同じファッショのバチスタ政権だ)、予定通りといおうか、入国拒否を受ける。船がハンブルグに向けて戻ろうとするところのユダヤ旅客たちの反応が様々なドラマを生んでゆく。
この頃、こうした群集ドラマが沢山あったのだが、主であったパニック映画と違い、この映画は歴史の痛みを伴う重たい主題だったので、それなりにずしりと答えた気分で映画館を出たことを覚えている。フェイ・ダナウェイの脚線美と、リン・フレデリックの汚れなき美貌などは、今の映画にはなかなか求められないハイレベルの表現力を持っていたりする。70年の映画はやはり、いいなあ。
※ちなみに劇場版プログラムが我が家にありました。