空での奇遇
飛行機の最前列。ふと聞いた声と思い、振り返ると、確かに通り過ぎて行ったのは、札幌地元の古い飲み仲間だ。新千歳空港で飛行機を下りて、声をかけた。ぼく自身いつもの居酒屋に最近とんと出かけていないのだが、この知り合いはもっとずっと前から顔を見かけなくなっていた。
俺、会社代わって、今では神奈川の知り合いの会社にお世話になってるんだよね、今回は夏休みを取れていなかったので、釣りをしようと思って、と片手に持った長ものを掲げてみせた。
この人は、店でたまたま知り合った常連の一人だったのだが、何せアメリカンニューシネマや、ハードボイルドに関して造形が深く、二人でつらつら話していると、周囲が完全におかしいよね、この二人、オタクだよねえ、と言われるのが常だったのだ。
この人は、学生時代アメリカに放浪の旅に出かけたことがあって、金がなくなるとテキトーに働いたりして、ビザの限界まで遊んで回ったらしい。中でもアメリカ中西部での滞在が長かったらしく、そのせいもあってか、ジェイムズ・クラムリーなどのウエスタンっぽいハードボイルドが空きなのだ。
空港から街に戻り、ぼくは会社に一旦戻って、夜に、いつもの店にて彼と再会した。今日の最初の話題は、もちろん矢作俊彦『傷だらけの天使』となった。互いに熱く語れる関係、がふとした偶然で訪れる。これだから、酒はやめられないのである。
※写真は、彼を待っている間退屈しのぎに撮影した、黄昏近い空港の風景である。大揺れに揺れただけあって風が強く、その分圧倒的に美しい空である。