神田みます屋
上京し、一日の長い仕事を終えて、この店に辿り着いた。昔、ここでFADVのオフを開いたことがあったっけなあ、と思い出す。その前には、笛吹亭百合虎さんに連れられてこの店を教えていただいたのだった。あのときは結婚前のボタンさんも一緒だったし、人外協(谷甲州ファンクラブ)のうちのヒロさんも一緒だったぞ。懐かしいなあ、と記憶を辿るとまだあった。
20年にわたって勤務した本郷の会社を辞めて無職になり北海道に帰ってゆくぼくのために、東松山に住む元上司がわざわざ見送りに出てきてくれ、この店で長いアナゴ煮つけや、コハダを突きながら、先のことを一緒に心配してくれたのだった。
新しい会社の北海道の若い同僚たちや、全国から会議にきた仲間たちを、ここに連れてきたこともあった。神田のホテルに泊まる時は、大抵この店で一日の幕切れを迎えるのだった。
会社内でのちょっとした組織変更があって今後はあまり上京することがなくなると思う。神田みます屋も築地場外市場などの喧騒もビジネスホテル帰りには味わいにくくなるか。そんな思いをつらつら話しながら、同僚と今宵最後のいっぱいをぐびっと飲み干した。