シュンの日記なページ

当別町スウェーデンヒルズ移住者 ブックレビュー 悪性リンパ腫闘病中 当別オジサンバンドOJB&DUOユニットRIOのVocal&Guitarist ツアーコンダクター 写真 スキー 山 田舎暮らし 薪ストーブ

罪と罰

 ジョン・グリシャムの『無実』を読んでいる。著者初のノンフィクション。冤罪で死刑を宣告された1980年代オクラホマ州の事件だ。冤罪に至る経緯がスクープそのものだが、死刑制度を改めて照射するこの本は、著者の『処刑室』(映画化されたときは「ザ・チェンバー」と原題のままだったか)を思い出す。
 アメリカの死刑に関しては、印象的な本や映画がある。『無実』を読み進めているうちにそれらの本の記憶がどんどん甦ってきて、互いに関連性を帯びてくる。それほど死刑ということ、冤罪ということ、それら二つの不条理は、深く考えさせられる問題であり続ける。
 ノーマン・メイラーの『死刑執行人の歌』は世界で最も有名な死刑囚となったゲイリー・ギルモアの実録だが、それ以上に印象的だったのが、実弟マイケル・ギルモアが書いた『心臓を貫かれて』(村上春樹訳)であった。
 一方で、スティーヴン・キングのファンタジックな死刑小説『グリーンマイル』は、ある意味古臭い電気椅子処刑の時代のものだ。
 ショーン・ペンスーザン・サランドンが記憶に焼きつくような素晴らしい演技を見せてくれた映画『デッドマン・ウォーキング』は、忘れられない現代アメリカの処刑室のシーンがあり、『無実』を読んでいる間、幾度となく映像が甦ってくる。
 冤罪の小説としては二十歳の頃に読んだバーナード・マラマッドの『修理屋』が、忘れられない。スターリンがシベリアに送った流刑者を思わせる恐怖に満ちたものだった(ソ連赤軍がまだまだ怖かった時代だった)。
 日本の小説としては加賀乙彦、生涯の傑作である『宣告』と、死刑囚監房勤務時代の記録を綴ったノンフィクション『死刑囚の記録』が忘れ得ぬ罪と罰コントラストをぼくの心に刻んで残した。未だに人生のマイ・ベスト・ノベルは『宣告』であると、躊躇いなしに言えるほどである。 

 とにかくそうした多くの記憶が甦り、ふたたび人間の罪と罰という場所に連れ戻されるような気分になるのが、この『無実』という本である。裁判員制度が、現在もニュースでかまびすしいが、ぼくの中では、人を裁くということ、また犯罪の真実というものは、一筋縄では行かない最も困難で理解を阻むものごとの一つなのである。
 だからこそ、この本は余計に重たい。読めば読むほどずしりとこたえてしまう。

 無実 (上) (ゴマ文庫) 無実 (下) (ゴマ文庫)