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直木賞受賞作を読む

 今回第138回直木賞には、北海道出身作家では佐々木譲馳星周とがノミネートされており、それぞれ『警官の血』警官の血 上巻 警官の血 下巻も『約束の地で』約束の地でも、ぼくは大いに気に入っており作家のベスト作品ではないかと思えるくらいだと思っている。
 しかし、受賞作は桜庭一樹という作家の『私の男』で、ぼくはこの人をほとんど知らなかった。女流作家だというのも受賞写真を見て初めて知る。

 私の男 私の男 asin:4163264302

 今日は午後から約6時間くらいかけて、この本を読んだのだけれど、表現が異様に凄みに満ちている。ずばりテーマが近親相姦というところにあるせいもあるのだけれど、被災し家族を喪ったヒロインが、欠損した人生を余儀なくされてゆく描写が凄まじいのだ。
 文章が巧いというのも基本にあるけれど、それより何より、読者がイメージしやすい語り口である。抽象を積み上げて心のデリケートな部分を描いてくるので、心に刺さる、と言える文章。
 だから読みやすいし、緊張感が持続して疲れるところはあるのだが、ページを繰る手が止まらない。これは傑作だと思って、じわじわと込み上げる何かを掴んで本を置いたのであった。
 この作家は普段こういう作品を書かない人らしい。どちらかと言えばライトノベルとか、明るい正常な小説を書くのだそうだ。そんなことが信じられないほどの手練れである。ちょっと衝撃的なくらいに。
 舞台の後半部分はすべて北海道。奥尻島紋別というどちらも海が嫌でも目に飛び込んでくる風土。この描写がまたいい。北海道作家じゃない人が受賞したけれど、結果的にこれほど北海道を巧く書いてくれた作品が受賞したのだから、道民としては納得するしかないのである。