シュンの日記なページ

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骨休め

 1990年の正月を、まだ子供のいなかった私たち夫婦は、道北のトシカの宿で過ごした。この辺りの事情は、私のホームページ内の『道北の冬』という紀行に詳しいのだが、そこでいつまでも印象に残って忘れ難いのが、Tさんという人である。
 Tさんはログビルダーであった。いわゆるログハウスを建てる人である。道内のあちこちでログハウスを建てて回っているらしく、その二の腕の筋肉と言ったら見とれるほどであった。サッカー日本代表の中澤に似ていた。
 彼は宿に毎晩連泊しているのだが、どこにも出かけることなく、ストーブの周りに座って、いつも文庫本を開いていた。文庫本は何冊か傍らに積み上げられていたので、その表紙から門田泰明の黒豹検事シリーズであることがわかった。

 黒豹皆殺し―黒豹全集 (ノン・ノベル) 黒豹皆殺し―黒豹全集 (ノン・ノベル) 黒豹奪還(上) (光文社文庫) 黒豹奪還(上) (光文社文庫) 黒豹列島―特命武装検事・黒木豹介 (徳間文庫) 黒豹列島―特命武装検事・黒木豹介 (徳間文庫)
 
 私たち他の宿泊客は、カムイ岬に雪上ドライブに出かけたり、中頓別スキー場でゲレンデ・スキーを楽しんだり、ノルディック・スキーを履いて牧草地のスノウ・トレッキングを楽しんだりと、日中はそれなりに忙しく意欲的に過ごしていたのだが、Tさんはいつも宿に残って、本を読んでいた。
 出かける際に、誰かがTさんは行かないのですか? と訪ねたのだが、Tさんは強面の顔を上げて「おれは行かない。ここには骨休めに来ているだけだから」と微笑んだのだった。
 骨休め、と言う言葉が似つかわしく思えた。日がな一日、ストーブのそばで、本を読んでいるTさんのその姿は。
 そんな言葉を思い出したのは、この三連休をどこにも行かずに、本ばかり読んでいる自分の姿が、まるであの時のTさんのようであるな、と思ったからだ。あの頃にはTさんの休日の過ごし方が実を言うとよくわからなかった。せっかくいいところに来ているのにどこも観光せず、味わうこともなく、屋内でずっと過ごすことの意味が。今、札幌に住み、たまに道北の宿を訪れる私には、改めて訪れる新たな観光スポットはもうない。実はこの三連休に道北への旅を考えはしたのだけれど、結局のところこうして家にいる。移動時間は馬鹿にならないし、体力的にも消耗が続いており、風邪気味で寝不足の体を、目覚まし時計や義務といういろいろなものから解放させてやりたいという考えもあったのだ。
 どこにも行かぬ三連休、というのは実はあまり過ごしたことがないような気がする。妻子ともにあれやこれや用事で日中はいなくなり、静かになった我が家で、私は、独りでコーヒーを淹れ、ずっと本を読んで過ごしている。


 ●本日、以下の書評をアップロード。

-『終決者たち』 マイクル・コナリー 古沢嘉通
-『名残り火 てのひらの闇 II』 藤原伊織
-『警官の血』 佐々木 嬢