建築家夫妻
夫婦揃って建築家というお宅がご近所にあり、縁あってお邪魔する。設計事務所兼自宅の建物は札幌のある住宅地にあるが、不思議と新しい家が多い。そのことを不思議に思い、口にすると、実は四、五年前まではここは住宅地ではなく、数軒の古い家を残して牧草地だったそうである。札幌のなかでも珍しく別世界のような広い牧草地の縁にその家は建っていたのだそうだ。それを残念そうに、夫人は語った。
ご主人は仕事の都合かお留守で、娘さんらしき人と犬が二匹歓待してくれる素敵な仕事場だ。ウェルシュ・コーギーに顔をぺろぺろ舐められたのだけれど、犬たちは、夫人が私に犬が好きかどうかを訊ね、私が嬉しそうな顔をして好きですと答えたために、応接ルームに飛び込んでくるのを許されたのだ。
設計したデザインの写真を見せていただき、その一つは増毛の高台にある喫茶店(右上の絵です)、兼ロッジ。旭川の見覚えのある動物病院は、この建築家夫妻の手になるものだった。
柔らかで、暖かい建築デザインのセンスもともかく、仕事の芯に人間性の豊かさが感じられる人柄に、感じ入ってしまった。
私の依頼した建築物のイメージは、設計図面3種と、そのすべての立体ミニチュア、それらのカラー画像という答となってわずか一週間である形になっていた。それも心ときめくような、デザインに。採光、目的、住人のイメージ、それらがよく配慮されていた。
すべてにおいてプロの仕事である。牧草地で憩っていた夫妻の仕事。北方系建築デザインでは名の通った建築家だ。斜面や川沿いの条件付きな土地をうまく利用し、土地を均さずに立体的な設計を試みる。増毛の喫茶もそうだし、私の依頼した富良野市の建築物も、斜面の原野に建つ(かもしれない)ものである。人柄も仕事柄も、実に気持ちよく、自宅であることから、暖かみのある空気。窓からの冬の光。
こういう方と出会える日に、仕事の幸福を感じることがたまにある。