シュンの日記なページ

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『どろろ』

 何と言っても手塚治虫の作品を今、この時代に取り上げることが嬉しい。この映画が世界21ヶ国で公開されるという配給会社の頑張りが嬉しい。この映画に20億円もの制作費を投じた製作チームの心意気が嬉しい(TBSかな?)。

 そんな嬉しさでいっぱいになって劇場に足を搬ぶのはある意味幸せである。映画を見る前からうきうきできることなんてそうないじゃないか。その幸せを映画が裏切らないということは、もっと幸せである。

 この映画で、最初に感じたのは手塚治虫の原作の設定が持つ物語の確かさだった。小学五年生だったぼくは「少年サンデー」の連載第一回で心を持っていかれた。最初に醍醐景光が48匹の魔物に我が子の体を売り渡す部分にがーんとやられた。後で思えば、手塚治虫は『ファウスト』も書いているのであり、悪魔に魂を売り渡すという原形はちゃんと出来ていたのである。ただし、少年漫画で連載するに当たって、主人公らを少年たちに置き換え、時代設定を戦乱の世に据え、アクション性を高めた。

 映画はより現代的なものに変わり、ファンタジースペースオペラの舞台装置を取り入れた。現代風のダンサーたち、洞窟の中のステージなどなど。一歩間違えば怪獣映画にもなってしまう妖怪との格闘シーンにスパニッシュ・ギターを掻き鳴らす音楽をフィットさせ、どこかウエスタンの香り漂う無国籍性をも出している。

 そして何よりもどろろを大人の女性に演じさせているところがこの映画の成功の要だったろう。この映画は何と言っても柴崎コウの作品なのだと強く感じる。とりわけラストシーンの見事さは、彼女の存在感なくしてはあり得ない。地獄のような世界で、生き生きと輝いてみせる生命の象徴のような存在。そのタフさ、表情の豊かさ、激しさ、憂い、すべてにおいて原作の持つどろろを演じて魅せた柴崎コウなくしては、この映画のここまでの魅力はなかった。

 この類い稀な原作に柴崎コウという役者、他にも香港のワイヤーアクション、CG技術、ニュージーランド・ロケ等々、ネタには事欠かない娯楽大作だった。日本映画もここまでやれるようになったか、という一つの見本のような作品である。