赤き弾丸
岡野がまたやってくれた。
彼が、黒部とともに交代の準備をしていると、ピッチサイド・レポーターからレポートがあったとき、黒部はともかく、岡野はこういう試合には効くぞ、という思いがなぜか強烈に募った。
もちろん岡野はこれまでもここぞという試合で見せてくれた。それこそ、数限りなく。
何しろ、岡野に不安をいっぱい感じていた心配性の策士である岡田元日本代表監督が、大きなためらいの後に彼を使おうと、鈍る心に鞭を入れた途端、岡野はわずかな出場時間をフルに沸かせて、とうとう日本代表をはじめてのワールドカップに導いてしまった。
そんな岡野が何かをやらかさないはずがない、ではないか。こんな試合では。
なので闘莉王はメディアで渾身の一発だとか、値千金のゴールだとか騒がれるとしても、ぼくはこの試合の真のヒーローは、やっぱり、そこにボールを入れた岡野だと思っている。
闘莉王もそりゃあ、凄いには凄いさ。しかし、まだまだ年季が足りない。岡野くらいにいずれはビッグな仕事をする選手という素材だからこそ、今の時点では、ヒーローの呼称はお預けとしておきたい。
岡野という男が持つプラス・アルファの要素。そう、かつて福田正博が持っていたものと共通する何か。あるいは、カリスマのような。
そういうものが、レッズの個々の技術ある選手たちにはまだ足りないと思う。
だから、時代は今もなお、レッズの岡野、なのである。
※ちなみに「赤き弾丸 岡野」とはARESが作った、岡野向けとしてはおそらく史上初登場の断幕である。大原で岡野を見てこいつは無名選手だけど、いける! と、早々に断幕デビューさせた経緯。三ツ沢の入り口前で赤布に白いガムテープを貼った朝のことを、ぼくは今でもはっきりと覚えている。