シュンの日記なページ

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さよなら、クロアチアからきたサムライ

 「天皇杯は、彼のための大会だった」

 ギド・ブッフバルトの言葉だ。彼とは、トミスラフ・マリッチクロアチアからやってきたサムライである。

 クラブチームとしての浦和レッズは、テスト生として来日したマリッチに合格通知を渡さなかった。エメルソンを高額で売り渡したレッズにはそれなりの金がうなっていたから、もっと有名で、能力が保証された選手を取ることができる。エメルソンに代わる数名のフォワードがリストアップされていた。しかし、ギド・ブッフバルトマリッチが欲しいとフロントに私見をぶつけた。既にポンテの加入は決定していた。後はフォワードだけだ。ポンテとマリッチのコンビネーションは既にブンデスリーガにおいて実績があり、ギドのイメージによれば、マリッチは典型的なボックス・プレイヤー、つまりペナルティ・エリアのなかで脳力を発揮する選手であった。

 かくしてギドの希望により、マリッチが1月1日までの契約でレッズに加入。最初はゴールを外しまくり、この選手は大丈夫かと思わされたが、前線での惜しみない守備は、エメルソンが持っていた勝ちへのこだわりを、すぐに凌駕するほどのものだった。三十歳とは思えない運動量が、ある意味脅威だった、後は、点を取れるかどうかだ。

 そのマリッチが徐々にペースを上げてゆく。ゴールはセカンドステージだけで8ゴール。主にワントップのポストプレイヤーとして楔になるパスを受ける役割でありながら、最後に彼がレッズサポに遺したイメージは、他でもない「点取り屋」のそれである。

 事実、天皇杯では5試合で6ゴール。昨年まで在籍していたエメルソンは天皇杯に出場することなく毎年ブラジルに帰省して正月休みを満喫していたから、マリッチの自己犠牲精神、そして既に来期の継続契約がないと通達されているにも関わらず、彼の選手としてのクライマックス・シーンとして、レッズの天皇杯優勝イメージがあるらしいと気づいたときには、このストライカーは只者ではないと感じ入った。

 ましてや、チームが戦術的に選手を変えるのも当然、自分はどのチームでも全力を尽くすだけ、といったインタビュアーへの回答がマリッチの特性を既にして見せつけていた。

マリッチが戦力外になったのは悲しいことだけど、人間として尊敬できる人」とは坪井の言葉。

「トミーのことは昔から知っている。性格もよくて選手としても素晴らしい。これから違うチームへ行くけど、神様は見ていると思う。きっといいチームが彼を呼んでくれるはずだ」は、ポンテの言葉。

 泣ける選手だ。トリビソンノペトロビッチといった、同じ外人選手でもレッズサポにとって「ちょっと違う」というくらい一身同体になれた選手の系譜に、たった半年という最短時間であれ、新たに加わったのが、マリッチというサムライではないだろうか。

 ちなみに今日の勝利についてマリッチはこう語る。淡々と、そして内面は溶鉱炉のように熱く。

「今日は自分のキャリアの中でも最高の1日だ。ゴールについては、自分は自分のことを語るのがあまり好きではない。とにかくチームとしてタイトルを獲りたかった。今日の勝ちもチーム、監督、ファン、浦和全員で勝ち取ったものだ」