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海辺の光景

 海辺のホテルでのセミナーが終わると、もう外に出かけて飲みなおすほどの元気も残されていなかったので、部屋の窓から竹芝桟橋の方角を見下ろして、一日の終わりのビールを飲むことにした。海面がいろいろな光を受けて揺れて綺麗だ。午後には、上流各地の台風の影響を受けてこのあたり一帯の海水はコーヒーみたいな色で、透明度は限りなくゼロに近かった。今もきっと不透明でコーヒーの色をしているのだろう。それでも夜の海面は、限りなく透明に近く見える。
 そんなことしか書くこともなく、軽々と「海辺の光景」とタイトルをつけてみたが、むしろ思い出されたのは安岡章太郎の『海辺の光景』。あまりに古い作品なのでうろ覚えにしか覚えていない。戦後の世相は明るく伸び行く経済と、生活のひずみの谷間に迷い込んだ貧しい層と、世界の暴力に窒息しそうな学生たちの俄かなアカデミズムだったような気がする。
 ぼくは、ふと高校生の頃の書店の店先に平積みにされていた本を思い浮かべる。『カミュサルトル論争 −革命か抵抗か−』、カミュ『異邦人』『シーシュポスの神話』『カミュの手帖』、カフカ『変身』『城』、倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』、サリンジャーライ麦畑でつかまえて』『ナイン・ストーリーズ』『大工よ屋根の梁を高く上げよ/シーモア序章』『フラニーとゾーイー』、カースン・マッカラーズ『針のない時計』『心は孤独な狩人』、カポーティ『冷血』『遠い声 遠い部屋』『ティファニーで朝食を』、フィッツジェラルド『華麗なるギャッツビー』、安部公房『壁』『箱男』『燃え尽きた地図』、トルストイ『光あるうち光の中を歩め』、ノーマン・メイラー『裸者と死者』『鹿の園』、ヘンリ・ミラー『南回帰線』、フォークナー『サンクチュアリ』、柴田翔『されどわれらが日々』、大江健三郎『芽むしり仔撃ち』『性的人間』『日常生活の冒険』『万延元年のフットボール』『セブンティーン』『遅れてきた青年』『われらの時代』、ヘミングウェイ武器よさらば』、ジョン・アップダイク『プアハウス・フェア』『走れウサギ』。
 多くの本のカバーに惹かれて、これの本をごく自然に読んだけれど、思えば娯楽小説という分野は隅に押しやられれていた気がする。十年後、書店の店先は、冒険小説やミステリーで埋まり始めるのだが、そんな古い時代の大書店の店先の光景がこうも変わるとは、当時のぼくには想像できなかったし、その後ぼくがすっかり大人になって、冒険小説やハードボイルドにのめりこむなんてことは、もっとずっと想像し難いことなのだった。