上陸の日
▼朝、5時半と高をくくっていてはいけない。船内アナウンスは4時半に大きな音量で船いっぱいに流れる。そのくせ、下船準備をして、車輌甲板で車に乗り込み、実際に新潟の土を踏むのは6時過ぎである。効率の悪い朝だ。
▼越後川口SAで朝飯と決まっている。震災のおかげで、パッチワークみたいになったでこぼこの上越道に入り、早朝にもちゃんと店を開けている最初のSAだ。誠に正統なことに、ぼくは天玉蕎麦を注文する。まさにサラリーマンの朝食だ。旅に出てもはみ出すことがない、この立派さだ。
▼まだ売り払ってはいないが、次のテナントを見つけようとするとリフォームに多大な金がかかると見積もられた、さいたまのわがマンションを見上げる。昔は梨畑だった土地が流通団地に変わり、静かだった田舎道が車の煤煙で腐っているを見て、やはりこのマンションには何の未練も感じないのだと悟る。
▼新都心のショッピングモールで、古い友達と午後を過ごす。ランチには、天心と酸辛湯をベースにした麺。外は熱波だが、モールでは、汗をかいたグラスに、いい響きを奏でる氷を見つめて、古い友達と古い話をすることができる。それ以外になんの時間つぶしも思いつかない。これが関東の夏なんだっけか。
▼とにかく先攻部隊である妻・息子の待つ妻の実家に到着することをできるだけ遅らせさえすれば、ぼくは満足である。蓄積された疲労に、船旅と高速道路を南下した疲労が重なっていて、これがなかなかに手ごわいのだ。