シュンの日記なページ

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<糾の森>再訪

 <糾の森>は、知り合いのYさんが8年前に始めたコーヒーの店。富良野駅前の店を一応チェックしたが、山の店準備のため夜7時からとの張り紙が玄関先に。ここは元蕎麦屋だったのだが、<生そば>の看板をYさんは外さないで、わざとかけっぱなしにしている。
 いつもは山の店は5月から開けていたはずなのだが、と思い、中富良野の山の上に移動。
 店主のYさんが壁のペンキ塗りをしている。一年ぶり以上になるか。Yさんは驚き、コーヒーくらいは淹れられるよとありがたいことを言う。同僚らと釧路で別れ、ここまで既に300kmの道のりを運転してきて、眠気の限界に来ていたのだ。
 苦味の利いた本格的なネル・ドリップ・コーヒーはいつもの味だった。器も重くて厚くていいぞ。外でかまびすしく鳴き盛るセミの声も相変わらずだ。
 開業もしていないカウンターを挟み、向かい合ってコーヒーを飲みながら近況報告。駅前再開発で、駅前の店は立ち退きを迫られているのだそうだ。あんな好条件の物件はないのに9月までに出てゆかねばならない。山の店は夏場だけで、冬は雪に埋もれる。なんだか大変な状況だ。
 でも山の店の内装は、床も張り替えて、以前よりも綺麗で明るい印象だ。TVドラマ『優しい時間』で二宮君の住む家として候補に上がったのだが、カメラにアスファルトの小道が映ってしまうというので監督が却下したのだそうだ。ドラマの影響で大変売れたのは、ネットでも販売されていコーヒーカップだそうだ。一つ6千円の売値がついているのに、1500個以上の注文だからざっと……。
 <糾の森の時計>に改名しようか、などとYさんは笑う。Yさんの変わらぬ無邪気な笑顔。古びた窓から針葉樹のフィルターを通して差し込んでくる夏の陽射し。
 富良野のほんとうの「優しい時間」は、TVドラマのために作られた<森の時計>にではなく、打ち捨てられていた廃屋を、Yさんが自ら道具を振るって再生させたここ<糾の森>にあるんだよ、と声には出さず、心の奥で呟いて、ぼくは席を立った。コーヒー代を、Yさんはおごりだと言って受け取らなかった。