シュンの日記なページ

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『死刑台のメロディ』

 随分前にTVで見た映画で強い印象に残っていたのがこの映画。BS放映されたものを録画しておいて今夜見た。さわりだけのつもりだったが、引きずられるようにして全部見てしまった。
 アナーキストとして赤狩りにひっかかったサッコとバンゼッティというイタリア移民が、殺人事件の犯人に仕立てられ、茶番のような裁判を経て死刑に至るまでの、救いようのない話だが、ただの暗澹たる映画ではなく、実は抵抗の空気に満ちている。この映画が作られたのは、1970年、まさにヴェトナム戦争のピークの頃で、ウッドストック後のアメリカでは反戦運動のうねりが引きもきらなかった。映画も自然70年代アメリカンニューシネマの形で、阻害され、謀殺されてゆく青春群像を描いていたし、ハッピーエンドがおよそ流行らなかった時代だ。
 この映画もそうしたアメリカン・ニューシネマなのかとばかり誤って記憶していたのだが、実はイタリア映画。バンゼッティ役は、マカロニウエスタンイーストウッドの敵役ばかり演じていたジャン・マリア・ボロンテ。当時、『仁義』や『山いぬ』などでも彼の強烈な印象を既に知っていたから、この映画に彼が出演した印象がないのも、彼の演じた役であるバンゼッティという実在の人物の印象にぼくが捉えられてしまったものなのかもしれない。
 全編を貫く音楽がジョーン・バエズであり、彼女の優しく母性に溢れるような透き通った歌声が、なぜにこれほどに抵抗の歌ばかりを歌わねばならなかったのかと、当時の世情を振り返れば、かなり痛ましく思えてくる。でもジョーン・バエズの限りなく意思を秘めた歌声が、最後まで耳に残る。とりわけラストの『勝利の賛歌』は、扇動的で猛々しく、繰り返し繰り返し、何日も何年も経っても耳に残ってゆきそうだ。映画の可能性として持っている抵抗の能力をフルに発揮し切った作品、と言えるのかもしれない。