シュンの日記なページ

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ノー・グッド・シングス

 ダシール・ハメットの作品が今でも映画になるというのは、この作家がアメリカでどのように捉えられているかという指標であると思う。ノワールの定義をあくまでハードボイルドの一ジャンルと捉えるならば、この作品は見事にハードボイルドを原作に作り上げたフィルム・ノワールである。
 『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のボブ・ラフェルソンはノワール映像の作家としてはお墨付きであるが、売れっ子のサミュエル・L・ジャクソンや、ミラ・ジョボビッチを主演に抜擢したりと、古い作家、古い原作の割には、B級ではなく、Aクラスのクライム・ムーヴィーに仕上げようというプロデューサーの意図に感嘆したい。
 ミラ・ジョボビッチリュック・ベッソン・フィルムの『ジャンヌ・ダルク』で中世的な魅力を振り撒いたにも関わらず、この映画では見事にセクシーである。彼女の表情と脚線美に悩殺されにくい男はあまり存在しないのではないか。そして定番だが、この種の映画においてなくてはならない悪女である。『チャイナタウン』のフェイ・ダナウェイからこの方ここまで定番のファム・ファタールを演じた女優は記憶にない。ボブ・ラフェルソンといえば『郵便配達……』でもジェシカ・ラングを見事なファム・ファタールに仕上げたフィルム作家であるから、その腕は何年経とうと錆び付いていない、といったところか。
 ハメットの短編『コンチネンタル・オプの事件簿』(ハヤカワ・ポケミス)に収録の『ターク通りの家』と『銀色の目の女』を合わせた脚本であるらしい。元来が地味な原作だが、とりわけ『ターク通りの家』では主人公のオプがずっと監禁状態にいるような小説であり、それを映画がそのまま踏襲している上に、糖尿病でインシュリンを切らしている主人公というあたり、なんとまあ主人公にとっては理不尽な物語なのだろうとの強い印象。でも、だからこそラストへの疾走感は映画のほうがきちんと原作にない派手さを用意しているのである。当たり前か。