シュンの日記なページ

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最もまずい酒

 旭川の夜、いつものしれとこにて飲む。相手は、話の通じない若者。上司に叱られたストレスを溜め込んで、上司に対し切れた。上司のことを考えると吐き気がこみ上げてくる。なので会社を去ってゆく。リセットをかけて心身の健康を取り戻さないと、と言う。吐き気がこみ上げてこなくても自分の指を喉に突っ込んで無理やり吐く。心の病気だと思うのだが、心療内科には怖くて行けないのだそうだ。会社を辞めて第二の人生を歩みたいという。これまで高校卒業以来12年で半ダースの会社を転々としている。これからの彼のこと、彼の奥さんのこと、仕事のこと、いろいろと慰留に努めると、すべてに頷くが、頑なにもう決めたことですからと呟く。暖簾に腕押し。取り付く島も無し。ぬかにくぎ。二時間ほどの間に生ビールを彼は1cmほど呑み、すべての料理に手をつけなかった。生ウニ、本マグロ、鍋、牛スジの煮込み、タン塩、ホッケ……。それらを一人でつつき、どれも半分ずつなくなってゆく。食べないのか? いえ、食べますと言って一度箸を持つがやがて何も食べないまま箸を置く。呑まないのか? いえ呑みますと言ってジョッキの端に口をつけて気の抜けたビールをテーブルの上に戻す。すべてにはい、と答え、すべてに頷き、人の話を聞いたような輝かしい目をする。少しばかり尋常ではないほどに人に迎合したまなざしだが、それはどこまでも冷たくもある。でもすべてに極度の拒絶と否定があり、目に見えない壁を作って、最後にはコミュニケーションの無を感じさせる。疲れ果ててホテルへ帰った。最もまずい酒、最もまずい料理の夜。旭川周辺の森の紅葉の美しさにため息をつきながらハンドルを握ってきた。この若者のためにやってきた夜が徒労になった。こうしていくつもの徒労を積み重ねてゆくうちに、何らかが生まれてゆくのだと思う。それにしても重たい疲労が背中にのしかかっていた。