シュンの日記なページ

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浜ちゃん

 浜ちゃんとは近所にある居酒屋の名前。昔、札幌に来た頃に、よく行っていたのだがあまりに凄い店なのでネットでも名前を伏せていた。穴場中の穴場であったのだ。片側二車線の道路に面していたあまり奇麗とは言えない店の店先には、溢れた客が涼み、店に二三台は置いてあったアコスティック・ギターでかぐや姫のフォークなんかを歌っていた。店のマスターである20代のスキンヘッドの浜ちゃんは毎朝積丹半島仕入れに行くという、店の最大の売り物はその力業であった。旭川にはサロマ湖まで朝に走って牡蠣を仕入れに行くその名も「サロマ湖」という店があるが、札幌の「浜ちゃん」は無名で、近所の常連だけを相手取る実に誠実な店だった。蠢く活だこ、黒ガレイの刺し身、その他海のものであれば凄まじく量が多く、凄まじく新鮮で美味かった。
 その「浜ちゃん」は数年前に引っ越した。今夜その店に出かけると、とても奇麗な、通路の両側小上がりという収容力だけでも随分大きく立派になった看板が当時と同じ「浜ちゃん」がそこにあった。量が少なくなったけれど、活だこ、朝いかはともに札幌では味わうことのできない新鮮みを相変わらず保っていた。美味しい。焼き鳥も厚揚げも当時のままに大きかったし、焼きおにぎりなどはチャーハン大盛りくらいの握りで、もはやおにぎりとは呼べないでかさであった。
 ただ寂しかったのはギターがなくなっていて、あの当時の常連が誰もいなくなっていて、がなりたてるオヤジも酔っぱらって怪しくなったオバさんもいなくなっていたことだった。奥さんの代わりに従業員らしいお姉ちゃんが注文を聞いて料理を運ぶ。浜ちゃんは厨房の奥に引っ込んでいるみたいでとうとう顔を見ることもできなかった。あの当時、札幌に来たばかりのぼくがふらりと入った店で、刺し身を切った浜ちゃんがぼくの頬張る顔を見て満面の笑みを浮かべ「うまいっしょ」と明るく声をかけてくれたあの店の雰囲気はみじんもなくなっていたのだった。