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ストックホルム症候群

 打海文三の『兇眼』でストックホルム症候群が扱われているだが、どうもそう広言している割には、これは本当にストックホルム症候群と言えるだろうかと疑問に思い始めた。ストックホルム症候群とは、ストックホルムの銀行強盗事件で、拉致監禁された行員らと犯人が監禁の間に心を通わせてしまい恋愛感情まで生まれてしまったことから名づけられたもので、有名なところでは映画『狼たちの午後』でのアル・パシーノと行員たちとの関係なども少しそういうところがあったように思う。
 ある意味で極限状態が生む独特の共感が、本来は敵対し合う関係を引き寄せ合ってしまうという不思議な感情なのだが、『兇眼』では拉致被害者の側が一方的にストックホルム症候群を表明し、監禁者側が取り合わない。昨日から新聞を賑わせている誘拐殺人事件も、映画『タトゥーあり』のモデルになった梅川事件も、犯人の側が人間の心を失っていることが多く、むしろアル・パシーノのようないい奴が銀行を襲うことは稀なのではないかと思われる。
 今朝の朝刊での早川書房の広告を見て、ちょうどストックホルム症候群そのものをストレートに小説化したものがアン・パチェットの『ベル・カント』だと知り、石狩市民図書館にゆくとラッキーなことに新刊入荷コーナーにこれがあったので、早速読み始めることにした。1996年、ゲリラ組織トゥパク・アマルによるペルーの日本大使公邸占拠事件をモデルにした物語だ。
 思えば、スティーヴン・キングの『グリーン・マイル』なども刑務官と死刑囚との一種の緊張感が、ストックホルム症候群に似た感情を呼び起こすシーンがある。刑務所という環境と、占拠場所という環境は、どちらも一方が一方を監視下に置いてコントロール権を握るという構図だから、類似したものがあっても、考えてみれば全然不思議はないわけだ。でも、刑務官が極悪犯罪者の梅川みたいな性格の人間であれば、共感などはさらさら得られないだろう。刑務官は銃口にさらされることがないからさらに悪質になることもできるわけだ。おまけに占拠事件は遠からず解決することになるが、死刑囚監房などでは、文字どおり「死ぬまで」この不穏な関係は続くのである。
 この症候群については考えれば考えるほど難しく、込み入っているという気がしてきた。