シュンの日記なページ

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トイレの窓は薄い

 札幌ではそう古い建物でもない限り、窓はたいて二重ガラスでできている。防寒と保温を目的にしていることは言うまでもないが、とりわけ雪が融けて暴走族が夜中に爆音をたてる季節になると、防音効果というのがけっこうありがたい。特に読書が好きな人間にとっては本当に嬉しい機能だ。
 しかし、今日不意に気づいて愕然としたことなのだが、トイレの窓については二重構造のすき間の層がいやに薄いのだ。なかに空気の層をたくさんつくることで防寒防音効果が出てくるようなのだけれど、トイレの窓はちょっとそれが物足りない。小さい窓ガラスであってもここはやはり防音効果も弱くなっているのだった。ぼくの大切な読書ルームの一つであるトイレが、今日は道知事選、札幌市長選に、道議選までもが加わり、それぞれの選挙カーによる絶え間ない演説のために、とても読書ルームとは言えないものになってしまっていたのである。これから二週間くらいの間、日中はこれが続くのかと思うと少々うんざりする。第二読書ルームとも言うべき風呂場(ぼくは半身浴をするので毎日軽く一時間は湯船で過ごすのだ)は、先日、暴走族によってその不可侵領域を汚染されたばかりだった。
 そもそも日中や真夜中に本を読んでくつろごうという方が少し贅沢過ぎるのかもしれないけれど。
 しかし、だとすると、いったいぼくはいつ本を読んだらいいのだ? ぼくは夕食にはビールを飲むし、家族とテレビを見ながら談話だってする。子どもの仮想敵の役をやらされて、決して仮想ではないパンチやキックを受け、危うく骨折しそうになったりもする。要するに夜の18時頃から家族が就寝する22時頃までは、ぼくは独りで過ごす時間をそうそう持てないのだ。とするとやはり睡眠時間を削って、就寝前の時間を最も多く取る以外にないのだ。
 そこでふと疑問が生じる。では文芸評論家はいったいいつあんなに沢山の本を読んでいるのだろう、と首を捻ってしまったわけだ。でも考えてみれば、香山さんも吉野さんも独身生活をまっとうしている(10年前の話なので今はそうではないかもしれない、でも多分ぼくの知る限りきっとそうだろう、そうに違いない)。関口さんはその後離婚をしていないならば(奥さんのできがいいから、離婚はしていないとは思うけれども、実際のところはぼくにはもうわからない)睡眠と食事以外の時間は、近所に別途借りている家賃格安の(余計かな)仕事場で、家族とは別の、読書と評論の生活を営んでいるはずだ。
 読書というのはまったき孤独な作業なので人に読み上げていただくというわけにはゆかない。だいいち、そんなことをしていたら時間がかかってしようがないだろう。読書と家庭とは相容れない存在なのだなあとつくづく思う。水と油のように時間を食らい合う存在なのだと。それに比べると、読書と孤独とは、まるでファム・ファタールとの関係のように固い絆を共有しているように思える。
 この一週間の独身生活を読書やDVDにあてがって、ファム・ファタールとともに有意義に過ごしているつもりのぼくであるはずだった。しかし今週から選挙運動が奇しくも始まってしまった。選挙カーの元気いっぱいなノイズを惜しみもなく透過してしまうトイレの窓を、そういうわけで恨めしく見上げている今日この頃というわけなのだった。