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ミシュランの星

 さて、ミシュランの三つ星評価はあまりにも有名だが、今日TV番組『アンビリーバボー』で、ミシュランの星はどうやって決めているのか? という特集特別番組を、なぜか惹きつけられるままに全部見てしまった。

 確かにミシュランのガイドブックは確固とした権威である。しかしミシュランは星の数についての評価基準については一切明らかにしていない。それでもレストランを経営する側にとっては絶対的な権威づけがされた評価基準とされ、星は目指すべき価値のある権威とみなされてもいる。

 全人生を賭けて星を獲得し、今度は星を維持せねばならない。ミシュランの星のために彼らが受ける精神的重圧は相当である。こうした重たい価値基準、絶対評価こそが、彼らの努力や必死な前進を結果的に導き出しているわけだ。

星の基準がどうやって定められるのかが明らかにされていないだけに、いくら努力してもこれで終わりという限度がはっきりしない。努力には永遠に到達点がなく、星を維持する労力は引き続き必要とされる。何かを怠れることにより星が確実に一つ減ってしまうかもしれないという、たゆまざる緊張感がこのシステムを維持している。

 そこへゆくと視聴者のアンケートで成り立ったラーメン全国ベスト100などがいかに愚かしく、寄って立つべき根拠も何もないことか。美味しさは数の論理だけでは決定しづらいものだ。下が肥えているかどうか不明の馬の骨を100名集めてもいい結果なんて得られるわけがない。

では日本でミシュラン評価を取り入れるとしたらどうだろうか。ラーメンは目指すべき方向性が多様すぎるため評価より好みというほうに落ち着きやすく店構えについても立派であればいいというものもなく、脂ぎったカウンターのほうが落ち着いてラーメンをすすれる、などあまりに微妙な要素がありすぎ、本来最もランクづけしにくい素材であるような気がする。ぼくとしてはせっかくなら蕎麦屋や居酒屋のミシュラン的評価を希望したいのだが、思えばフランス料理に比べて随分いじましいかなという気もする。

 さて本題。では、小説のミシュラン評価とは? これが言いたかった。

過去、権威ある評価基準としては、大衆小説分野では圧倒的に直木賞。ではランク付けということになるとどうだろうか。ことミステリでは『週刊文春』のランク付けが最良という人が多いだろう。書店の帯ということでは最近は『このミス』のネームバリューが出てきた。『イン☆ポケット』も然り。

 しかしいずれにしても、ミシュランに値するようなランクづけは現状では存在していないということである。ミシュランはタイヤメーカーであり、そのガイドブックはサービス課とでもいったところが扱う付加価値的存在に過ぎない。ただしタイヤも一流のブランドだ。一方でレストランを純然たる客観性をもって評価してゆくために、少数精鋭のインスペクターが評価を集めるというのだ。

 同じことを小説の評価という世界で行うのは困難だろうか。ホテルやレストランの評価とは違い、収まるべき評価枠というのもセットし難いかもしれない。味と同様に小説の面白さも主観であるが、ミシュランと同様、少数精鋭による同時評価というものは実現できるのではないか。そうした評価のプロがいればの話だが。

 現状、『文春』も『このミス』もだいたい毎度同じ評論家、社会人サークル、大学ミス研等からアンケートをとっている。一方、ミシュランは国内でのインスペクター数は二十人程度。決めるのは、ほとんど彼らの足と報告会でのディスカッションだ。

 とすると、日本のミステリについてもアンケート集計に委ねるばかりではなく、読書の達人と呼ばれる二十人くらいの人だけで、ランクを決めてしまう方法を取ってもよいのではないか。たとえ不公平、基準が不明とほざかれようと。その評価が権威づけされてしまえばいいのではないか。ミシュランだって最初は星をつけていたわけではなかった。これほどの権威になることを予想もしていなかったろう。継続が効果を生み出したいい例だ。

 そこでのランク入りを目指して作家が書き、読者がそれを注目するような権威あるランク。評価基準が不明なため、決してマニュアル的に作り上げることのできないランクだ。

 現状では既存のランクに権威がないために、作家も読者もそれらのランクを真剣にとりあってはいないだろう。むしろランクに対して批判的な立場の人が多いのではないか。要は面白半分にランクづけをやっているのに過ぎない(含む、FADV)。

 しかし汎にせよ叛にせよ、目指したり打倒したりすべき確固たる権威の存在というのは、その分野の向上のために是非とも必要である気がする。ミシュランの星は確実にフランス料理を美味しくしてきたのだ。