最後のドライブ
キャデラックには本当にお世話になったなあ。
ものの見事に3000CCの強力エンジンの音を飲み込んでくれ、車内は、走っているんだかなんだかわからないほど、静謐に包まれる。そんな何気ない重厚さが嬉しかった。朝の光や外の風を浴びながら、淑女のようになめらかに美しい足で歩みゆく、そんな高貴さを感じさせる車だった。
その車に、最後の火を入れ、燃料を静かに気化させながら、ポイプからリフェ空港へ向かう。
昨日は未明に、キプ・ランチへ向かった道だ。しかし昨日ほどは混雑していない。
そして夜が明け、山々が輝いている、素敵で美しい道。
これがこの旅で最後に走る道でなければどんなにいいだろう。
半年後にまた来ようね、と妻。
妻が言うとおり、本当に、何度でも来たくなる島だった。式場のシダの洞窟の日帰り団体の他、ついに日本人観光客には一人として出くわさなかったこの島の旅。結婚式以外に、日本語を使う機会が一つもなかったある意味過酷で非情なる旅。これぞ海外の旅の醍醐味ではないか。