シュンの日記なページ

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初恋の頃

 自分の育った地元の町を営業で回っていたら、とあるお客さんとの間で、ぼくの中学の話になり、さらに同級生は誰々って話になり、その中で、思い切り初恋の人の名前が出てきた。あ、その人は同じクラスでした、って答えると、あの子はお嫁に行って北海道に住んでいるよ、と教えてくれた。
 中学を卒業間際に唐突なラブレターを出して、そして振られた。通学時に駅で出会うことがあり、そういうとき、今までとは違うまなざしで彼女は微笑んだ。
 年賀状も来るようになった。恥ずかしかった。
 白百合のように可憐で清楚で美しい人だった。
 浮いた噂ひとつない人だっただけに、だれもこの片思いについては知らないに違いない。
 かえってぼくはほかの人のあらぬ噂が複数あり、そういう噂の相手と顔を合わせるのも恥ずかしいくらいだった。
 初恋の人からの返信の手紙によれば、そういう噂が振られる原因になったように読めた。
 思わず蘇る40年前の春。あの頃ぼくの心は激しく傷つき、もがいていて、癒えることがなかなかできないままなのであった。
 誰か知らない人のもとへ嫁ぎ、今、北海道で暮らしていると聞いたことで、かすかに悔しさに似た感情が胸に生まれ、そして酸っぱいレモンのような感触とともに消えていった。